被害者意識が爆発

 

鎮魂のデトロイト (ハーパーBOOKS)

鎮魂のデトロイト (ハーパーBOOKS)

 

 シーナ・カルマ著の『鎮魂のデトロイト』を読んだ。

ノラという女性が主人公のミステリー。ノラは、自殺したとされる父親のルーツを探ろうとバンクーバーからデトロイトへ行って、調査を開始した。元軍人の父親の足跡を追うことにより、父親も母親も不幸であることが分かってくる。ノラはデトロイトでネイトと知り合う。しかし、暗殺者に狙われて、ネイトは意識不明の重体になる。それでも父と母の面影を追い続けた。そして、ノラを狙う暗殺者と対峙することになり、何とか生き延びて、娘に自分のルーツを話そうと決意した。

悲壮感が漂う物語なのだが、ネイトがノラを狙う暗殺者に撃たれて、意識不明の重体になってしまう。しかし、ノラは警察の捜査に協力しない。最後には、暗殺者がなぜノラを狙うかを話して、娘に色々と話すことが出来たという終わり方はないだろう。ネイトはなぜ意識不明の重体になったのか?完全にノラが巻き添えにしたのに、何も責任感を感じないのはなぜか?捜査に協力しないというのは、なぜなのか?最後には、父親と母親の境遇に同情するが、巻き起こした出来事に何も責任感を感じずに、ノラは自分は悲しい存在なのだというのを強調する終わり方に、納得がいかなかった。なぜノラは自分が被害者という結末になっているのか?暗殺者に狙われる原因になったのも前作で、金持ちだった人間を殺害する形になったからなのに……。

男には理解できない世界なのかもしれない。著者も女性だし。結局は、ノラが散々調査と題して、嗅ぎまわらなければ起こらなかった悲劇。ネイトが可哀そうすぎて、そっちの方が気になってしまう。

ポジティブな感情が湧きでてくる箇所は一切ないので、泣き言が好きな人には共感ができる内容となっている。人を選ぶ作品かもしれない。

【小説】復讐の大地(下)/トム・クランシー

 

トム・クランシー著の『復讐の大地(下)』を読んだ。

ブルーナ提督が拉致されたが助け出した。しかし、ブルーナ提督の息子が父親の救助の体制に不満を持ち、単独でイラクに潜入し、父親を助けようとISILに潜入する。しかし、ISILに捕らわれて、次にブルーナ提督の息子の救助作戦が開始される。

ブルーナ提督の息子は何をしにイラクに行ったのだろうか?父親である提督はアメリカ国内で救助された。そして、息子の救助作戦。う~ん。日本で起こったら、息子の場合は、自己責任とか言われて、救助にも消極的になりそうだ。アメリカは国家として頼りになるのだろう。いまいちストーリー展開に不満が残った

アメリカとISILの戦争と銘打っているが、アメリカ軍人は1人も犠牲者を出さずに相手を殲滅しようとする。ISIL側は、戦闘が起こったら、味方に死傷者が出ることを前提に戦っている。これを戦争というのか?ただのアメリカ軍の虐殺にしか思えないのだが……。ISILのテロに共感は一切覚えないが。アメリカの軍事力が世界最強。だから、アメリカの言いなりになる。それを受け入れるべきだという考えも違うような気がする。今となったら、戦前の日本もアメリカとの軍事力が格段上だったから、アメリカとの戦争に踏み切った旧日本軍は無能という評価は、単純には言い切れないのではないのか?結局は、外交で対立したら、戦争という手段に出る。それは、どの国でもやっていること。戦争は反対だけどね。アメリカの要求を全て受け入れろ。は納得できるものではない。日本の外交ももっと頑張ってほしいと思った。

トム・クランシーの作品。たしかに、面白いが、ストーリーにやや不満があった。全く面白くないわけでないので、日本でも人気があるのはわかる。他の作品も読んでみるかは微妙。ミリタリーアクションはそこまで好きなジャンルではないので。

【小説】復讐の大地(上)/トム・クランシー

 

トム・クランシー著の『復讐の大地(上)』を読んだ。

ISIL(イスラム国)がアメリカの特使を拉致して、殺害動画をインターネット上で流した。アメリカは報復で、ISILの拠点を壊滅させて、司令官を倒したと思ったが、まだ生きていて、新たなアメリカ政府高官を拉致し、アメリカ軍は救助に懸命になっている。

トム・クランシーの作品。有名で、作品はたくさんあるのは知っていたが、今まで手を出さなかった。王道すぎる設定に、興味がそそられなかったが、1作品ぐらい読んでみようとして手に取った作品。これぞ王道という展開に、辟易するかと思いきや、意外に物語に没頭することになった。さすが大御所なのだろう。

ここは意見が分かれるところかもしれないが、やたらと軍事用語が詳しい。戦闘機の細かい種別情報とかが必要なのだろうか?ヘリならヘリコプターで良いなような。この精緻さが物語を盛り上げているのか?軍事用語に詳しくないので、ただ単に読みにくいだけかもしれない。まさかの双眼鏡に対して、双眼鏡の正式名称を使っていたのには驚いた……。情報過多になりすぎるのも読み手にはつらいと思うが……。

不満点もあるが、この拉致事件がどのような決着がつくのか?王道中の王道というストーリー展開だけに、ハッピーエンドにはなるのだろうが、それまでの過程を楽しんでいきたい。下巻も楽しみだ。

【小説】その裁きは死/アンソニー・ホロヴィッツ

 

その裁きは死 (創元推理文庫)

その裁きは死 (創元推理文庫)

 

 アンソニーホロヴィッツ著の『その裁きは死』を読んだ。

日本では人気沸騰中のアンソニーホロヴィッツ。その新作が出た。もちろん内容はミステリーになっている。

犯人が誰かを推理していくのだが、今回の小説は物足らなかった。犯人はあれはないよという結末に。散々とストーリー中にあの人も怪しい、この人かも、と胸を弾ませてラストにたどり着いたら、犯人はあの人……。ラストがつまらない小説は、かなりがっかりする。終わりよければ全て良しにしてくれないと。長い時間かけて、これでは、本を読む人が減っていくのはわかってしまう。

そもそも出版業界も先細りしていっているとのことで、本を売りたいのだろう。しかし、どの本も誰々が絶賛とか賞賛の嵐の帯になっていて、どの本がおすすめか判別がつかない。概要も表記されており、本を読まなくても何となくこんな本だろうと推測できる始末……。文庫本なら、裏の粗筋だけで十分だよ!!

と関係ないことも書いたが、今回の小説は少し残念に思った。

【小説】魔術師/ジェフリー・ディーヴァー

 

魔術師 上 (文春文庫)

魔術師 上 (文春文庫)

 

 

 ジェフリー・ディーヴァー著の『魔術師』の上下巻を読んだ。

リンカーン・ライムシリーズの第5弾。アッと驚くどんでん返しが数多くあり、読者を驚嘆させる。

内容は、魔術師がイリュージョンを使い、様々な犯行を繰り返していく。ライムは、魔術とわかっていても、なかなか真相にたどり着かない。さらに、ライム自身にも危機が迫り、危うく命を落とすところだった。

マジックがテーマの本作であるが、マジックはタネを仕込んでいるから、出来るというイメージ。しかし、手錠を嵌められても、足を拘束されても、それから、容易に抜け出すことが出来たということだったが、そんなに簡単に出来るものなのだろうか?あっさりと書かれているだけで、もっと詳細に書いて欲しかった。イメージしにくい。

細かい点には不満があるが、マジックで何でもできるという前提に立って、内容を考えると、かなり面白いストーリーだった。人間の意識の捉われ方とかのマジックの基本概念とか、人間の葛藤、様々な因果関係を基にした科学推理を堪能できた。でも、作品が続いてきて、科学捜査の驚きは減ってきた。科学捜査の基本的な内容に慣れてきたからだろう。

この本だけを読んだら、マジシャンが完璧な犯罪者になれるみたいに思ってしまう。う~ん、そこまではないだろう。でも、マジックと犯罪と科学捜査がミックスするとこんなに魅力的な作品になるのか?という感じ。良質なミステリーで、このシリーズを読んで満足しない人はいないでは?と思ってしまう。まだシリーズは残っている。次の帰化に読もう。

【小説】一人称単数/村上春樹

 

一人称単数 (文春e-book)

一人称単数 (文春e-book)

 

村上春樹著の『一人称単数』を読んだ。

村上春樹ファンに悪いが、全てにおいて古臭く感じる。村上ワールドかもしれないが、新鮮さに欠ける内容となっていた。

映画も本も何でもそうだが、本を読むなりして、「こんな面白い小説読んだよ」とか他人に面白さを伝えたくなるのは人の心情だと思う。この本を読んで、他人に伝えたいという気持ちが全く起こらない。本は一人で楽しむものかもしれないが、何かその点で不満が爆発しそうだ。

村上春樹……現日本の文芸界の重鎮。批判することは許されないのだろう。でも、一読者として、もっと新鮮さを感じる作品を書いて欲しい。昔からのファンは裏切っていないから、これはこれでいいのかも。少し不満が残る内容だった。

【小説】脇坂副署長の長い一日/真保裕一

 

脇坂副署長の長い一日 (集英社文庫)

脇坂副署長の長い一日 (集英社文庫)

  • 作者:真保 裕一
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 文庫
 

 真保裕一著の『脇坂副署長の長い一日』を読んだ。

アイドルが一日署長をするイベントの時に、9年前の事件が絡んできたりと、脇坂副署長が一日中駆け回り、9年前の事件の真相に辿り着くという話。

色々な出来事が出てきて、状況がカオス的になるが、最後には1つにまとまるという手法を用いた警察小説。あまりミスリードがないから、読みやすい内容となっていると思う。言い方を変えれば、あまり捻りがない分、退屈する可能性もある。

しかし、いくら犯罪者の雇用をし、社会に貢献している社長といっても、9年前に死刑もありうる殺人放火事件を隠し続けていたのに、9年後に自白したから、情状酌量を望むとかありえる?死んだ人が浮かばれないだろう。なぜ、こういうことを平気で書くのだろうか?自白したといっても、9年後。その間、平気で社長として、悠々自適に暮らしているのはおかしいだろう。理解ができない。

読みやすい小説ではあるが、何か満足ができない作品。小説ないぐらい正義が成り立つというのが個人的には好み。関係ないかもしれないけれど、日本の中途半端な考え方が影響しているのかもしれない。いじめを例として、いじめがあったら、いじめられる方にも問題があるという答えもありえると考えられている。いじめられる側を徹底的に観察して、何か失言があったら、いじめられる側も悪いみたいな。本質はそこ?いじめという行為が良いか悪いかが議論されないといけないのに、加害者は悪くないみたいになってしまっている。このような意味不明な考え方が、殺人を犯した犯人を人情話に変えて、本質をあいまいにする傾向になっている。この傾向がこの本に影響を及ぼしているかもしれない。何度も言うが、小説ぐらいは、正義がなされるということを望みたい。